釈迦が前世に商主だった時、諸の商人達をひきいて、治安の悪いのところを通った。 すると鬼が出てきて行く手を阻み、「止まれ、動くな」といった。 商主は右手で殴りかかると、拳は鬼にくっつき、引いても離れない。 それじゃこうだ!、と、左拳・右脚・左脚を繰り出して攻撃をしたが、全て鬼にくっついてしまった。 最後の手段、とて頭突きを食らわすも、頭も鬼にくっついてしまった。 鬼が、「お前は何をしようとしているのだ、まだ満足していないようだな」というと 商主は「たとえ手足が奪われても、戦う事をやめないぞ、負けるもんか!」と答えた 鬼はこれを聞いて、(ふははは。この者の胆力は極めて大きい)と思って喜んだ。 そしてこう言った。「お前は精進して決して休むな、俺は今お前を解放しよう」 信仰者が信心するに当たっては最初から最後まで、昼夜を問わず、怠けてはいけない。それは正にこの釈尊の前世の姿のように。 大論精進鬼等とは、第十六に云く、釈迦は先世に曾て商主たり。諸の賈客を将いて、険難の処に入る。中に羅刹有って手を以て之を遮して言く、汝は住せよ、動ずること莫れ。商主は右手を以て之を撃つに、拳即ち鬼に著き、挽けども離すべからず。又、左拳・右脚・左脚を以てするに、是くの如く次第に皆黏せられて著く。復頭を以て衝くに其の頭も復著く。鬼は問う、汝は何等を作さんと欲する、心は休息するや未だしや。答う、五処に繋すと雖も、心は終に休まず、精進力を以て汝と相撃つこと要ず懈退せず。鬼は之を聞いて歓喜の心を生じ、是の人の胆力極めて大なりと念って語って言く、汝は精進して必ず休息せざれ、我は今汝を放たん。行者は善法の中に於て、初・中・後夜に身心懈けざること亦復是くの如し。(止会下340) {{category 説話}}