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人頭鹿

 人頭鹿(にんずろく)

昔、波羅奈(はらな)国の梵摩達(ぼんまだつ)王はしょっちゅう狩猟を楽しんでいました。
 ある時、立派な鹿がお城にやってきてこう言いました。

「王は娯楽の為に鹿狩りをするが、鹿にとっては生死に関わる大迷惑である。そんなに鹿肉が欲しいなら毎日一頭ずつ出頭させるから無益な殺生はしないで欲しい」

 それは鹿の王でした。人の王は鹿の王の言い分を聞いて面白く思い、承知しました。
 そうして次の日から毎日、鹿が一頭ずつ犠牲になりに人王のもとへ出頭してきました。
 所で鹿の群れは二つ有り、ある時一つの群れの犠牲当番に当たった雌鹿がボスにこう訴えました。

「次は私が犠牲になる番ですが、私のおなかには赤ちゃんがいます。この子が生まれるまで誰か別の鹿を犠牲にやらせて下さい」

ボスは怒って

「誰だって命が惜しい、代わりに死んでくれなど誰が承知するものか!順番通りお前が行け」

雌鹿はもう一つの群れのリーダーに陳情に行きました。このリーダーこそが最初に人王の所へ談判しにいった鹿王です。鹿王は雌鹿の言い分を聞いて、大変憐れに思い発案者の自分が代わりに行くことにしました。

 鹿王がやってきたので人王は「もう鹿は絶えたのかと」驚きました。事の子細を聞いた人王は鹿王の行為に感動し「お前こそが人だ。私は姿は人でも心は畜生だった(人頭鹿)」と言って以後鹿肉を食べない誓いを立てました。命がけの慈しみ、これが身の精進である、ということです。

「大智度論」大正蔵二五巻一七八頁参照
人頭鹿とも申すべき」(四条金吾殿御返事470)


本種坊だより201503
[説話,]

最終更新時間:2017年10月08日 21時56分09秒