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『一代聖教大意』


(★89㌻)
       十地 無明を断ぜる菩薩
       等覚  無明を断ぜる菩薩
       妙覚  無明を断尽せる仏
  此の経は大乗なり。戒定慧を明かす。戒とは前の蔵通二教に似ず尽未来際の戒、金剛法戒なり。此の教の菩薩は三悪道をば恐れとせず。二乗道を三悪道と云ひて地・餓・畜等の三悪道は仏の種子を断ぜず、二乗の道は仏の種子を断つ。大荘厳論に云はく「恒に地獄に処すと雖も大菩提を障へず。若し自利の心を起こさば是大菩提の障りなり」と。この経の習ひは真の悪道とは三無為の火阬なり。真の悪人とは二乗を立つるなり。されば悪をば造るとも、二乗の戒をば持たじと談ず。故に大般若経に云はく「若し菩薩設ひ殑伽沙劫に妙なる五欲を受くとも、菩薩戒に於て猶犯と名づけず。若し一念二乗の心を起こさば即ち名づけて犯と為す」文。此の文に妙なる五欲とは色声香味触の五欲なり。色欲とは青黛・珂雪・白歯等、声欲とは糸竹管絃、香欲とは沈檀芳薫、味欲とは猪鹿等の味、触欲とは軟膚等なり。此に殑伽沙劫の著すとも菩薩戒は破れず、一念の二乗の心を起すに菩薩戒は破ると云へる文なり。太賢の古迹に云はく「貪に汚さると雖も大心尽きざるをもって無余の犯無きが故に無犯と名づく」文。二乗戒に趣くを菩薩の破戒とは申すなり。華厳・般若・方等、総じて爾前経にはあながちに二乗をきらうなり。定慧は此を略す。梵網経に云はく「戒をば謂ひて平地と為し、定をば謂ひて室宅と為す、智慧は為れ灯明なり」文。此の菩薩戒は人・畜・黄門・二形の四種を嫌はず但一種の菩薩戒を授く。此の経の意は五十二位を一々の位に多倶低劫を経て衆生界を尽くして仏に成るべし。一人として一生に仏に成る物無し。一行を以て仏に成る事無し。一切行を積みて仏と成る。微塵を積みて須弥山と成るが如し。華厳・方等・般若・梵網・瓔珞等の経に此の旨分明なり。但し二乗界の此の戒を受くる事を嫌ふ。妙楽の釈に云はく「遍く法華已前の諸経を尋ぬるに、
 
 

平成新編御書 ―89㌻―

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