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『立正安国論』


(★235㌻)
  客の曰く、天下の災・国中の難、余独り嘆くのみに非ず、衆皆悲しめり。今蘭室に入りて初めて芳詞を承るに、神聖去り辞し、災難並び起こるとは何れの経に出でたるや。其の証拠を聞かん。
  主人の曰く、其の文繁多にして其の証弘博なり。
  金光明経に云はく「其の国土に於て此の経有りと雖も未だ嘗て流布せず。捨離の心を生じて聴聞せんことを楽はず、亦供養し尊重し讃歎せず。四部の衆、持経の人を見るも、亦復尊重し乃至供養すること能はず。遂に我等及び余の眷属、無量の諸天をして此の甚深の妙法を聞くことを得ず、甘露の味はひに背き正法の流れを失ひて、威光及以勢力有ること無からしむ。悪趣を増長し、人天を損減して、生死の河に堕ちて涅槃の路に乖かん。世尊、我等四王並びに諸の眷属及び薬叉等、斯くの如き事を見て、其の国土を捨てゝ擁護の心無けん。但我等のみ是の王を捨棄するに非ず、必ず無量の国土を守護する諸大善神有らんも皆悉く捨去せん。既に捨離し已はりなば其の国当に種々の災禍有りて国位を喪失すべし。一切の人衆皆善心無く、但繋縛・殺害・瞋諍のみ有って、互ひに相讒諂して枉げて辜無きに及ばん。疫病流行し、彗星数出で、両の日並び現じ、薄蝕恒無く、黒白の二虹不祥の相を表はし、星流れ地動き、井の内に声を発し、暴雨悪風時節に依らず、常に飢饉に遭ひて苗実成らず、多く他方の怨賊有りて国内を浸掠せば、人民諸の苦悩を受けて、土地として所楽の処有ること無けん」已上。
  大集経に云はく「仏法実に隠没せば鬚髪爪皆長く、諸法も亦忘失せん。時に当たって虚空の中に大いなる声ありて地を震ひ、一切皆遍く動ぜんこと猶水上輪の如くならん。城壁破れ落ち下り屋宇悉く(手+巳)拆し、樹林の根・枝・葉・華葉・菓・薬尽きん。唯浄居天を除きて欲界一切処の七味・三精気損減して、余り有ること無けん。解脱の諸の善論時に当たって一切尽きん。生ずる所の華菓の味はひ希少にして亦美からず。諸有の井泉池一切尽く枯涸し、土地悉く鹹鹵し、剔裂して丘澗と成らん。諸山皆燋然して天竜も雨を降さず。苗稼皆枯れ死し、生ずる者皆死れ尽くして余草更に生ぜず。
 

平成新編御書 ―235㌻―

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