←次へ  TOPへ↑  前へ→  

『法華題目抄』


(★361㌻)
 観経等の四十余年の経々に値ひて生死をはなれんと思ふはいかゞ。はかなしはかなし。女人は在世正像末総じて一切の諸仏の一切経の中に法華経をはなれて仏になるべからざる事を、霊山の聴衆として道場開悟し給へる天台智者大師定めて云はく「他経は但男に記して女に記せず、今経は皆記す」等云云。釈迦如来・多宝仏・十方諸仏の御前にして、摩竭提国王舎城の艮霊鷲山と申す所にて、八箇年の間説き給ひし法華経を智者大師まのあたり聞こしめしけるに、我五十年の一代聖教を説きをく事は皆衆生利益のためなり。但し其の中に四十二年の経々には女人は仏になるべからずと説き、今法華経にして女人の成仏をとくとなのらせ給ひしを、仏滅後一千五百余年に当たりて、霊鷲山より東北十方八千里の山海をへだてゝ摩訶尸那と申す国あり。震旦国是なり。此の国に仏の御使ひとして出世し給ひ、天台智者大師となのりて女人は法華経をはなれて仏になるべからずと定めさせ給ひぬ。尸那国より三千里へだてゝ東方に国あり、日本国と名づけたり。漢土の天台大師御入滅二百余年と申せしに、此の国に生まれて伝教大師となのらせ給ひて、秀句と申す書を造り給ひしに「能化所化倶に歴劫無し妙法の経力にて即身成仏す」と竜女が成仏を定め置き給へり。而るに当世の女人は即身成仏こそかたからめ、往生極楽は法華を憑まば疑ひなし。譬へば江河の大海に入るよりもたやすく、雨の空より落つるよりもはやくあるべき事なり。
  而るに日本国の一切の女人は南無妙法蓮華経とは唱へずして、女人の往生成仏をとげざる双観経等によりて、弥陀の名号を一日に六万返十万返なんどとなうるは、仏の名号なれば巧みなるにはにたれども、女人不成仏不往生の経によれる故に、いたづらに他の財を数えたる女人なり。これひとえに悪知識にたぼらかされたるなり。されば日本国の一切の女人の御かたきは、虎狼よりも、山賊海賊よりも、父母の敵・とわり等よりも、法華経をばをしえずして念仏ををしうるこそ、一切の女人の第一の御かたきなれ。女人の御身としては南無妙法蓮華経と一日に六万十万千万等も唱へて、
 

平成新編御書 ―361㌻―

provided by