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『南部六郎三郎殿御返事』


(★684㌻)
 又涅槃経に云はく「熈連一恒供養の人此の悪世に生まれて此の経を信ぜん」等云云取意。阿闍世王は父を殺害し母を禁固せし悪人なり。然りと雖も涅槃経の座に来たって法華経を聴聞せしかば、現世の悪瘡を治するのみに非ず四十年の寿命を延引したまひ、結句無根初住の仏記を得たり。提婆達多は閻浮第一の一闡提の人、一代聖教に捨て置かれしかども此の経に値ひ奉りて天王如来の記莂を授与せらる。彼を以て之を推するに末代の悪人等の成仏不成仏は、罪の軽重に依らず但此の経の信不信に任すべし。
  而るに貴辺は武士の家の仁、昼夜殺生の悪人なり。家を捨てずして此所に至って何なる術を以てか三悪道を脱るべきか。能く能く私案有るべきか。法華経の心は当位即妙・不改本位と申して罪業を捨てずして仏道を成ずるなり。天台の云はく「他経は但善に記して悪を記せず、今経は皆記す」等云云。妙楽の云はく「唯円教の意は逆即是順なり。自余の三教は逆順定まるが故に」等云云。爾前分々の得道有無の事之を記すべしと雖も名目を知る人に之を申すなり。然りと雖も大体之を教ふる弟子之有り。此の輩等を召して粗聞くべし。其の時之を記し申すべし。恐恐謹言。
   文永十年太歳癸酉八月三日        日  蓮 花押
  甲斐国南部六郎三郎殿御返事
 
  鎌倉に筑後房・弁阿闍梨・大進阿闍梨と申す小僧等之有り。之を召して御尊び有るべし、御談義有るべし、大事の法門等粗申す。彼等は日本に未だ流布せざる大法少々之を有す。随って御学問に注し申すべきなり。
 

平成新編御書 ―684㌻―

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