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『高橋入道殿御返事』


(★888㌻)
 後には他国侵逼難と申して隣国よりせめられて、或はいけどりとなり、或は自殺をし、国中の上下万民皆大苦に値ふべし。此ひとえに上行菩薩のかびをかをほりて法華経の題目をひろむる者を、或はのり、或はうちはり、或は流罪し、或は命をたちなんどするゆへに、仏前にちかいをなせし梵天・帝釈・日月・四天等の、法華経の座にて誓状を立てゝ、法華経の行者をあだまん人をば、父母のかたきよりもなをつよくいましむべしとちかうゆへなりとみへて候に、今日蓮日本国に生まれて一切経並びに法華経の明鏡をもって、日本国の一切衆生の面に引き向けたるに寸分もたがわぬ上、仏の記し給ひし天変あり地夭あり。定んで此の国亡国となるべしとかねてしりしかば、これを国主に申すならば国土安穏なるべくは、たづねあきらむべし。亡国となるべきならばよも用ひじ、用ひぬ程ならば日蓮は流罪・死罪となるべしとしりて候ひしかども、仏いましめて云はく、此の事を知りながら身命ををしみて一切衆生にかたらずば、我が敵たるのみならず一切衆生の怨敵なり、必ず阿鼻大城に墮つべしと記し給へり。
  此に日蓮進退わづらひて、此の事を申すならば我が身いかにもなるべし。我が身はさてをきぬ、父母・兄弟並びに千万人の中にも一人も随ふものは国主万民にあだまるべし。彼等あだまるゝならば仏法はいまだわきまえず、人のせめはたへがたし。仏法を行ずるは安穏なるべしとこそをもうに、此の法を持つによって大難出来するは、しんぬ此の法を邪法なりと誹謗して悪道に墮つべし。此も不便なり。又此を申さずば仏誓に違する上、一切衆生の怨敵なり。大阿鼻地獄疑ひなし。いかんがせんとをもいしかども、をもひ切って申し出だしぬ。申し始めし上は又ひきさすべきにもあらざれば、いよいよつより申せしかば、仏の記文のごとく国主もあだみ、万民もせめき。あだをなせしかば、天もいかりて日月に大変あり。大せいせいも出現しぬ。大地もふりかへしぬべくなりぬ。どしうちもはじまり、他国よりもせめたり。仏の記文すこしもたがわず。日蓮が法華経の行者なる事も疑わず。
  但し去年かまくらより此のところへにげ入り候ひし時、道にて候へば各々にも申すべく候ひしかども申す事もなし。
 

平成新編御書 ―888㌻―

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