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『妙心尼御前御返事』


(★901㌻)
 これをいきてみ候はんまなここそあだあだしく候へ。
  入道殿は今生にはいたく法華経を御信用ありとはみ候はねども、過去の宿習のゆへ、かのもよをしによりてこのなが病にしづみ、日々夜々に道心ひまなし。今生につくりをかせ給ひし小罪はすでにきへ候ひぬらん。謗法の大悪は又法華経に帰しぬるゆへにきへさせ給ふべし。たゞいまに霊山にまいらせ給ひなば、日いでて十方をみるがごとくうれしく、とくしにぬるものかなと、うちよろこび給ひ候はんずらめ。中有の道にいかなる事もいできたり候はゞ、日蓮がでしなりとなのらせ給へ。わずかの日本国なれども、さがみ殿のうちのものと申すをば、さうなくおそるゝ事候。
  日蓮は日本第一のふたうの法師、たゞし法華経を信じ候事は、一閻浮提第一の聖人なり。其の名は十方の浄土にきこえぬ。定めて天地もしりぬらん。日蓮が弟子となのらせ給はゞ、いかなる悪鬼等なりとも、よもしらぬよしは申さじとおぼすべし。さては度々の御心ざし申すばかりなし。恐々謹言。
    八月十六日                  日  蓮 花押
  妙心尼御前御返事
   さるは木をたのむ、魚は水をたのむ、女人はおとこをたのむ、わかれのをしきゆへにかみをそり、そでをすみにそめぬ。いかでか十方の仏もあはれませ給はざるべき、法華経もすてさせ給ふべきとたのませ給へ、たのませ給へ。
 

平成新編御書 ―901㌻―

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