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『報恩抄』


(★1034㌻)
 秋冬の草のかるヽがごとく、氷の日天にとくるがごとくなりゆくをみよ。
  問うて云はく、此の法実にいみじくば、など迦葉・阿難・馬鳴・竜樹・無著・天親・南岳・天台・妙楽・伝教等は、善導が南無阿弥陀仏とすヽめて漢土に弘通せしがごとく、慧心・永観・法然が日本国を皆阿弥陀仏になしたるがごとく、すヽめ給はざりけるやらん。答へて云はく、此の難は古の難なり、今はじめたるにはあらず。馬鳴・竜樹菩薩等は仏滅後六百年七百年等の大論師なり。此の人々世にいでヽ大乗経を弘通せしかば、諸々の小乗の者疑って云はく、迦葉・阿難等は仏の滅後二十年四十年住寿し給ひて正法をひろめ給ひしは、如来一代の肝心をこそ弘通し給ひしか。而るに此の人々は但苦・空・無常・無我の法門をこそ詮とし給ひしに、今馬鳴・竜樹等はかしこしといふとも迦葉・阿難等にはすぐべからず是一。迦葉は仏にあひまいらせて解りをえたる人なり。此の人々は仏にあひたてまつらず是二。外道は常・楽・我・浄と立てしを、仏世に出でさせ給ひて苦・空・無常・無我と説かせ給ひき。此のものどもは常・楽・我・浄といへり是三。されば仏も御入滅なりぬ。又迦葉等もかくれさせ給ひぬれば第六天の魔王が此のものどもが身に入りかはりて仏法をやぶり外道の法となさんとするなり。されば仏法のあだをば頭をわれ、頚をきれ、命をたて、食を止めよ、国を追へと諸の小乗の人々申せしかども、馬鳴・竜樹等は但一・二人なり。昼夜に悪口の声をきヽ朝暮に杖木をかうぶりしなり。而れども此の二人は仏の御使ひぞかし。正しく摩耶経には六百年に馬鳴出で、七百年に竜樹出でんと説かれて候。其の上、楞伽経等にも記せられたり。又付法蔵経には申すにをよばず。されども諸の小乗のものどもは用ゐず但理不尽にせめしなり。「如来現在猶多怨嫉況滅度後」の経文は此の時にあたりて少しつみしられけり。提婆菩薩の外道にころされ、師子尊者の頚をきられし此の事をもっておもひやらせ給へ。
  又仏滅後一千五百余年にあたりて月氏よりは東に漢土といふ国あり。陳・隋の代に天台大師出世す。
 

平成新編御書 ―1034㌻―

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