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『妙法比丘尼御返事』


(★1258㌻)
 而るに日蓮は日本国安房国と申す国に生まれて候ひしが、民の家より出でて頭をそり袈裟をきたり。此の度いかにもして仏種をもうへ、生死を離るゝ身とならんと思ひて候ひし程に、皆人の願はせ給ふ事なれば、阿弥陀仏をたのみ奉り幼少より名号を唱へ候ひし程に、いさゝかの事ありて此の事を疑ひし故に一つの願をおこす。日本国に渡れる処の仏経並びに菩薩の論と人師の釈を習ひ見候はゞや。又倶舎宗・成実宗・律宗・法相宗・三論宗・華厳宗・真言宗・法華天台宗と申す宗どもあまた有りときく上に、禅宗・浄土宗と申す宗も候なり。此等の宗々枝葉をばこまかに習はずとも、所詮肝要を知る身とならばやと思ひし故に、随分にはしりまはり、十二・十六の年より三十二に至るまで二十余年が間、鎌倉・京・叡山・園城寺・高野・天王寺等の国々寺々あらあら習ひ回り候ひし程に、一つの不思議あり。
  我等がはかなき心に推するに仏法は唯一味なるべし。いづれもいづれも心に入れて習ひ願はゞ、生死を離るべしとこそ思ひて候に、仏法の中に入りて悪しく習ひ候ひぬれば、
 

平成新編御書 ―1258㌻―

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