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『妙法尼御前御返事』


(★1482㌻)
 №0416
     妙法尼御前御返事    弘安三年七月一四日  五九歳
 
  御消息に云はく、めうほうれんぐゑきゃうをよるひるとなへまいらせ、すでにちかくなりて二声かうしゃうにとなへ乃至いきて候ひし時よりもなをいろもしろく、かたちもそむせずと云云。
  法華経に云はく「如是相乃至本末究竟等」云云。大論に云はく「臨終の時色黒きは地獄に堕つ」等云云。守護経に云はく「地獄に堕つるに十五の相、餓鬼に八種の相、畜生に五種の相」等云云。天台大師の摩訶止観に云はく「身の黒色は地獄の陰を譬ふ」等云云。
  夫以みれば日蓮幼少の時より仏法を学し候ひしが、念願すらく、人の寿命は無常なり。出づる気は入る気を待つ事なし。風の前の露、尚譬へにあらず。かしこきも、はかなきも、老いたるも若きも、定め無き習ひなり。されば先づ臨終の事を習ふて後に他事を習ふべしと思ひて、一代聖教の論師・人師の書釈あらあらかんがへあつめて此を明鏡として、一切の諸人の死する時と並びに臨終の後とに引き向けてみ候へば、すこしもくもりなし。此の人は地獄に堕ちぬ乃至人天とはみへて候を、世間の人々或は師匠・父母等の臨終の相をかくして西方浄土往生とのみ申し候。悲しいかな、師匠は悪道に堕ちて多くの苦しのびがたければ、弟子はとゞまりゐて師の臨終をさんだんし、地獄の苦を増長せしむる。譬へばつみふかき者を口をふさいできうもんし、はれ物の口をあけずしてやまするがごとし。
  しかるに今の御消息に云はく、いきて候ひし時よりも、なをいろしろく、かたちもそむせずと云云。天台云はく「白々は天に譬ふ」と。大論に云はく「赤白端正なる者は天上を得る」云云。
 

平成新編御書 ―1482㌻―

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