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『松野殿女房御返事』
(★1495㌻)
№0420
松野殿女房御返事 弘安三年九月一日 五九歳
白米一斗・芋一駄・梨子一篭・茗荷・はじかみ・枝大豆・ゑびね、旁の物給び候ひぬ。濁れる水には月住まず。枯れたる木には鳥なし。心なき女人の身には仏住み給はず。法華経を持つ女人は澄める水の如し。釈迦仏の月宿らせ給ふ。譬へば女人の懐み始めたるには、吾が身には覚えねども、月漸く重なり、日も屢過ぐれば、初めにはさかと疑ひ、後には一定と思ふ。心ある女人はをのこゞをんなをも知るなり。法華経の法門も亦かくの如し。南無妙法蓮華経と心に信じぬれば、心を宿として釈迦仏懐まれ給ふ。始めはしらねども、漸く月重なれば心の仏夢に見え、悦ばしき心漸く出来し候べし。法門多しといへども止め候。法華経は、初めは信ずる様なれども後遂ぐる事かたし。譬へば水の風にうごき、花の色の露に移るが如し。何として今までは持たせ給ふぞ。是偏に前生の功力の上、釈迦仏の護り給ふか。たのもしゝ、たのもしゝ。委しくは甲斐殿申すべし。
九月一日 日蓮花押
松野殿女房御返事
平成新編御書 ―1495㌻―
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