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『蓮盛抄』


(★26㌻)
 
 №0005 蓮盛抄   (建長七年 三四歳)
 
  禅宗云はく、涅槃の時、世尊座に登り拈華して衆に示す。迦葉破顔微笑せり。仏の言はく、吾に正法眼蔵・涅槃妙心・実相無相・微妙の法門有り。文字を立てず、教外に別伝し、摩訶迦葉に付嘱するのみ。問うて云はく、何なる経文ぞや。禅宗答へて云はく、大梵天王問仏決疑経の文なり。問うて云はく、件の経は何れの三蔵の訳ぞや。貞元・開元の録の中に曽て此の経無し、如何。禅宗答へて云はく、此の経は秘経なり。故に文計り天竺より之を渡す云云。問うて云はく、何れの聖人、何れの人師の代に渡りしぞや、跡形無きなり。此の文は上古の録に載せず、中頃より之を載す。此の事禅宗の根源なり、尤も古録に載すべし、知んぬ偽文なり。禅宗の云はく、涅槃経二に云はく「我今所有の無上の正法、悉く以て摩訶迦葉に付嘱す」云云、此の文如何。答へて云はく、無上の言は大乗に似たりと雖も、是小乗を指すなり。外道の邪法に対すれば、小乗をも正法といはん。例せば大法東漸と云へるを、妙楽大師解釈の中に「通指仏教」と云ひて、大小権実をふさねて大法と云ふなり云云。外道に対すれば小乗も大乗と云はれ、下﨟なれども分には殿と云はれ、上﨟と云はるゝがごとし。涅槃経三に云はく「若し法宝を以て阿難及び諸の比丘に付嘱せば、久住するを得じ。何を以ての故に、一切の声聞及び大迦葉は、悉く当に無常なるべし。彼の老人の他の寄物を受くるが如し。是の故に応に無上の仏法を以て諸の菩薩に付嘱すべし。諸の菩薩は善能問答するを以て、是くの如き法宝は則ち久住するを得、無量千世・増益熾盛にして、衆生を利安せん。彼の壮人の他の寄物を受くるが如し。是の義を以ての故に諸大菩薩乃ち能く問はんのみ」云云。大小の付嘱其れ別なること分明なり。同経の十に云はく「汝等文殊当に四衆の為に広く大法を説くべし。今此の経法を以て汝に付嘱す。
 

平成新編御書 ―26㌻―

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