←次へ  TOPへ↑  前へ→  

『立正安国論』


(★238㌻)
 四海・一州・五畿・七道に、仏経は星のごとく羅なり、堂宇雲のごとく布けり。鶖子の族は即ち鷲頭の月を観じ、鶴勒の流は亦鶏足の風を伝ふ。誰か一代の教を褊し三宝の跡を廃すと謂はんや。若し其の証有らば委しく其の故を聞かん。
  主人喩して曰く、仏閣甍を連ね経蔵軒を並べ、僧は竹葦の如く侶は稲麻に似たり。崇重年旧り尊貴日に新たなり。但し法師は諂曲にして人倫を迷惑し、王臣は不覚にして邪正を弁ふること無し。
  仁王経に云はく「諸の悪比丘多く名利を求め、国王・太子・王子の前に於て自ら破仏法の因縁・破国の因縁を説かん。其の王別へずして此の語を信聴し、横に法制を作りて仏戒に依らず。是を破仏・破国の因縁と為す」已上。
  涅槃経に云はく「菩薩、悪象等に於ては心に恐怖すること無かれ。悪知識に於ては怖畏の心を生ぜよ。悪象の為に殺されては三趣に至らず、悪友の為に殺されては必ず三趣に至る」已上。
  法華経に云はく「悪世の中の比丘は邪智にして心諂曲に、未だ得ざるを為れ得たりと謂ひ、我慢の心充満せん。或は阿練若に納衣にして空閑に在り、自ら真の道を行ずと謂ひて人間を軽賤する者有らん。利養に貪著するが故に白衣の与に法を説いて、世に恭敬せらるゝこと六通の羅漢の如くならん。乃至常に大衆の中に在りて我等を毀らんと欲するが故に、国王・大臣・婆羅門・居士及び余の比丘衆に向かって誹謗して我が悪を説いて、是邪見の人外道の論議を説くと謂はん。濁劫悪世の中には多く諸の恐怖有らん。悪鬼其の身に入って我を罵詈し毀辱せん。濁世の悪比丘は仏の方便随宜所説の法を知らず、悪口して顰蹙し数々擯出せられん」已上。
  涅槃経に云はく「我涅槃の後無量百歳に四道の聖人悉く復涅槃せん。正法滅して後像法の中に於て当に比丘有るべし。持律に似像して少しく経を読誦し、飲食を貪嗜して其の身を長養し、袈裟を著すと雖も、猶猟師の細視除するが如く猫の鼠を伺ふが如し。常に是の言を唱へん、我羅漢を得たりと。外には賢善を現じ内には貪嫉を懐く。
 

平成新編御書 ―238㌻―

provided by