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『四恩抄』


(★269㌻)前
 両眼より涙を流す事雨の如し。我一人此の国に生まれて多くの人をして一生の業を造らしむる事を歎く。彼の不軽菩薩を打擲せし人現身に改悔の心を起こせしだにも、猶罪消え難くして千劫阿鼻地獄に堕ちぬ。今我に怨を結べる輩は未だ一分も悔る心もおこさず。是体の人の受くる業報を大集経に説いて云はく「若し人あって万億の仏の所にして仏身より血を出ださん。意に於て如何。此の人の罪をうる事寧ろ多しとせんや否や。大梵王言さく、若し人只一仏の身より血を出ださん、無間の罪尚多し。無量にして算をおきても数をしらず、阿鼻大地獄の中に堕ちん。何に況んや万億の仏身より血を出ださん者を見んをや。終によく広く彼の人の罪業果報を説く事ある事なからん。但し如来をば除き奉る。仏の言はく、大梵王、若し我が為に髪をそり、袈裟をかけ、片時も禁戒をうけず、欠犯をうけん者を、なやまし、のり、杖をもて打ちなんどする事有らば、罪をうる事彼よりは多し」
  弘長二年壬戌正月十六日                  日蓮花押
 工藤左近尉殿
 

平成新編御書 ―269㌻―

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