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『顕謗法抄』


(★276㌻)
 又鉄の棒を以て頭を打ちて、熱鉄の地をはしらしむ。或は熱鉄のいりだなにうちかへしうちかへし此の罪人をあぶる。或は口を開けてわける銅のゆを入るれば、五臓やけて下より直に出ず。寿命をいはゞ、人間の四百歳を第四の都率天の一日一夜とす。又都率天の四千歳なり。都率天の四千歳の寿を一日一夜として、此の地獄の寿命四千歳なり。此の地獄の業因をいはゞ、殺生・偸盗・邪婬の上、飲酒とて酒のむもの此の地獄に堕つべし。当世の比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷の四衆の大酒なる者、此の地獄の苦免れがたきか。大論には酒に三十六の失をいだし、梵網経には酒盃をすゝめる者、五百生に手なき身と生まるととかせ給ふ。人師の釈にはみゝずていの者となるとみえたり。況んや酒をうりて人にあたえたる者をや。何に況んや酒に水を入れてうるものをや。当世の在家の人々この地獄の苦まぬかれがたし。
  第五に大叫喚地獄とは、叫喚の下にあり。縦広前に同じ。其の苦の相は上の四つの地獄の諸の苦に十倍して重くこれをうく。寿命の長短を云はゞ、人間の八百歳は第五の化楽天の一日一夜なり。此の天の寿八千歳なり。此の天の八千歳を一日一夜として、此の地獄の寿命八千歳なり。殺生・偸盗・邪婬・飲酒の重罪の上に妄語とてそらごとせる者此の地獄に堕つべし。当世の諸人は設ひ賢人・上人なんどいはるゝ人々も、妄語せざる時はありとも、妄語をせざる日はあるべからず。設ひ日はありとも月はあるべからず。設ひ月はありとも年はあるべからず。設ひ年はありとも一期生妄語せざる者はあるべからず。若ししからば当世の諸人一人もこの地獄をまぬかれがたきか。
  第六に焦熱地獄とは、大叫喚地獄の下にあり。縦広前におなじ。此の地獄に種々の苦あり。若し此の地獄の豆計りの火を閻浮提にをけらんに、一時にやけ尽きなん。況んや罪人の身の軟らかなることわたのごとくなるをや。此の地獄の人は前の五つの地獄の火を見る事雪の如し。譬へば人間の火の薪の火よりも鉄銅の火の熱きが如し。
 

平成新編御書 ―276㌻―

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