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『法華題目抄』


(★355㌻)
 しかりといえども摩訶尸那日本等の辺国の者は御名をもきかざりき。一千余年すぎて、三百五十余年に及んでこそ、纔かに御名計りをば聞きたりしか。さればこの経に値ひたてまつる事をば、三千年に一度花さく優曇華、無量無辺劫に一度値ふなる一眼の亀にもたとへたり。大地の上に針を立てゝ、大梵天王宮より芥子をなぐるに、針のさきに芥子のつらぬかれたるよりも、法華経の題目に値ふことはかたし。此の須弥山に針を立てゝ、かの須弥山より大風つよく吹く日、いとをわたさんに、いたりてはりの穴にいとのさきのいりたらんよりも、法華経の題目に値ひ奉る事はかたし。さればこの経の題目をとなえさせ給はんにはをぼしめすべし。生盲の始めて眼あきて父母等をみんよりもうれしく、強きかたきにとられたる者のゆるされて妻子を見るよりもめづらしとをぼすべし。
  問うて云はく、題目計りを唱ふる証文これありや。答へて云はく、妙法華経の第八に云はく「法華の名を受持せん者、福量るべからず」と。正法華経に云はく「若し此の経を聞きて名号を宣持せば、徳量るべからず」と。添品法華経に云はく「法華の名を受持せん者、福量るべからず」等云云。此等の文は題目計りを唱ふる福計るべからずとみへぬ。一部八巻二十八品を受持読誦し、随喜護持等するは広なり。方便品寿量品等を受持し乃至護持するは略なり。但十四句偈乃至題目計りを唱へとなうる者を護持するは要なり。広略要の中には題目は要の内なり。
  問うて云はく、妙法蓮華経の五字にはいくばくの功徳をおさめたるや。答へて云はく、大海は衆流を納め、大地は有情非情を持ち、如意宝珠は万宝を雨らし、梵王は三界を領す。妙法蓮華経の五字も亦復是くの如し。一切の九界の衆生並びに仏界を納めたり。十界を納むれば亦十界の依報の国土を收む。
  先づ妙法蓮華経の五字に一切の法を納むる事をいはゞ、経の一字は諸経の中の王なり。一切の群経を納む。仏世に出でさせ給ひて五十余年の間八万聖教を説きをかせ給ひき。仏は人寿百歳の時、壬申の歳、二月十五日の夜半に御入滅あり。其の後四月八日より七月十五日に至るまで一夏九旬の間、一千人の阿羅漢結集堂にあつまりて一切経をかきをかせ給ひき。
 

平成新編御書 ―355㌻―

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