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『法華題目抄』


(★356㌻)
 其の後正法一千年の間は五天竺に一切経ひろまらせ給ひしかども、震旦国には渡らず。像法に入りて一十五年と申せしに、後漢の孝明皇帝永平十年丁卯の歳、仏教始めて渡りて、唐の玄宗皇帝開元十八年庚午の歳に至るまで、渡れる訳者一百七十六人、持ち来たる経律論一千七十六部・五千四十八巻・四百八十帙。是皆法華経の経の一字の眷属の修多羅なり。先づ妙法蓮華経の以前、四十余年の間の経の中に大方広仏華厳経と申す経まします。竜宮城には三本あり。上本は十三世界微塵数の品、中本は四十九万八千八百偈一千二百品、下本は十万偈四十八品。此の三本の外に震旦・日本には僅かに八十巻・六十巻・四十巻等あり。阿含小乗経・方便般若の諸大乗経等。大日経は梵本には阿嚩囉訶佉の五字計りをもて三千五百の偈をむすべり。況んや余の諸尊の種子・尊形・三摩耶其の数をしらず。而るに漢土には但纔かに六巻七巻なり。涅槃経は双林最後の説、漢土には但四十巻なり。是も梵本之多し。此等の諸経は皆釈迦如来の所説の法華経の眷属の修多羅なり。此の外過去の七仏千仏・遠々劫の諸仏の所説、現在十方の諸仏の諸経も皆法華経の経の一字の眷属なり。されば薬王品に仏、宿王華菩薩に対して云はく「譬へば一切の川流江河の諸水の中に海為れ第一なるが如く、衆山の中に須弥山為れ第一、衆星の中に月天子最も為れ第一」等云云。妙楽大師の釈に云はく「已今当説最為第一」等云云。此の経の一字の中に十方法界の一切経を納めたり。譬へば如意宝珠の一切の財を納め、虚空の万象を含めるが如し。経の一字は一代に勝る。故に妙法蓮華の四字も又八万法蔵に超過するなり。
  妙とは法華経に云はく「方便の門を開きて真実の相を示す」云云。章安大師の釈に云はく「秘密の奥蔵を発く之を称して妙と為す」云云。妙楽大師此の文を受けて云はく「発とは開なり」等云云。妙と申す事は開と云ふ事なり。世間に財を積める蔵に鑰なければ開く事かたし。開かざれば蔵の内の財を見ず。華厳経は仏説き給ひたりしかども、彼の経を開く鑰をば仏、彼の経に説き給はず。阿含・方等・般若・観経等の四十余年の経々も仏説き給ひたりしかども、
 

平成新編御書 ―356㌻―

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