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『真言見聞』


(★611㌻)
 而して各所収の物六分の一を以て、以て田主に貢輸す。一人を以て主と為し、政法を以て之を治む。茲に因って以後、刹利種を立て、大衆欽仰して、恩卒土に流る。復大三末多王と名づく」巳上倶舎に依りて之を出だすなり。
  顕密の事。無量義経十功徳品に云はく 第四功徳の下 「深く諸仏秘密の法に入り、演説すべき所違ひ無く失無し」と。
 抑大日の三部を密教と云ひ、法華経を顕教と云ふ事、金言の出る所を知らず。所詮真言を密と云ふは、是の密は隠密の密なるか。微密の密なるか。物を秘するに二種有り。一には金銀等を蔵に篭むるは微密なり。二には疵片輪等を隠すは隠密なり。然れば則ち真言を密と云ふは隠密なり。其の故は始成と説く故に長寿を隠し、二乗を隔つる故に記小無し。此の二つは教法の心髄、文義の綱骨なり。微密の密は法華なり。然れば則ち文に云はく、四の巻法師品に云はく「薬王、此の経は是諸仏秘要の蔵なり」云云。五の巻安楽行品に云はく「文殊師利、此の法華経は諸仏如来秘密の蔵なり。諸経の中に於て最も其の上に在り」云云。寿量品に云はく「如来秘密神通之力」云云。如来神力品に云はく「如来一切秘要之蔵」云云。
 加之真言の高祖竜樹菩薩、法華経を秘密と名づく、二乗作仏有るが故にと釈せり。
 次に二乗作仏無きを秘密とせずば真言は即ち秘密の法に非ず。所以は何ん。大日経に云はく「仏不思議真言相道の法を説いて、一切の声聞・縁覚を共にせず。亦世尊普く一切衆生の為にするに非ず」云云。二乗を隔つる事、前四味の諸経に同じ。随って唐決には方等部の摂と判ず。経文には四経含蔵と見えたり。
  大論の第百巻に云はく 第九十品を釈す 「問うて曰く、更に何れの法が甚深にして、般若に勝れたる者有って、般若を以て阿難に嘱累し、而も余経をば菩薩に嘱累するや。答へて曰く、般若波羅蜜は秘密の法に非ず。法華等の諸経に阿羅漢の受決作仏を説いて大菩薩能く受用す。譬へば大薬師の能く毒を以て薬と為すが如し」等云云。玄義の六に云はく「譬へば良医の能く毒を変じて薬と為すが如く、二乗の根敗反復すること能はず。之を名づけて毒と為す。今経に記を得るは即ち是毒を変じて薬と為す。故に論に云はく、余経は秘密に非ずとは法華を秘密と為せばなり。
 

平成新編御書 ―611㌻―

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