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『妙一尼御前御消息』
(★831㌻)後
№0200
妙一尼御前御消息 建治元年五月 五四歳
夫天に月なく日なくば草木いかでか生ずべき。人に父母あり、一人もかけば子息等そだちがたし。其の上過去の聖霊は或は病子あり、或は女子あり。とゞめをく母もかいがいしからず。たれにいゐあづけてか冥途にをもむき給ひけん。
大覚世尊、御涅槃の時なげいてのたまわく、我涅槃すべし、但心にかゝる事は阿闍世王のみ。迦葉童子菩薩、仏に申さく、仏は平等の慈悲なり。一切衆生のためにいのちを惜しみ給ふべし。いかにかきわけて、阿闍世王一人とをほせあるやらんと問ひまいらせしかば、其の御返事に云はく「譬へば一人にして而も七子有り、是の七子の中に一子病に遇へり、父母の心平等ならざるに非ず、然れども病子に於て心則ち偏に多きが如し」等云云。天台、摩訶止観に此の経文を釈して云はく「譬如七子、父母非不平等、然於病者、心則偏重」等云云とこそ仏は答へさせ給ひしか。文の心は、人にはあまたの子あれども、父母の心は病する子にありとなり。
平成新編御書 ―831㌻―
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