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『撰時抄』


(★872㌻)
 諸の凡夫人見已はって皆真の阿羅漢、是大菩薩なりと謂はん」等云云。彼の法華経の文に第三の敵人を説いて云はく「或は阿蘭若に納衣にして空閑に在て、乃至世に恭敬せらるゝこと六通の羅漢の如き有らん」等云云。般泥洹経に云はく「羅漢に似たる一闡提有って而も悪業を行ず」等云云。此等の経文は、正法の強敵と申すは悪王・悪臣よりも外道・魔王よりも破戒の僧侶よりも、持戒有智の大僧の中に大謗法の人あるべし。されば妙楽大師かひて云はく「第三最も甚し、後々の者は転識り難きを以ての故なり」等云云。法華経の第五の巻に云はく「此の法華経は諸仏如来の秘密の蔵なり。諸経の中に於て最も其の上に在り」等云云。此の経文に最在其上の四字あり。されば此の経文のごときんば、法華経を一切経の頂にありと申すが法華経の行者にてはあるべきか。而るを又国に尊重せらるゝ人々あまたありて、法華経にまさりてをはする経々ましますと申す人にせめあひ候はん時、かの人は王臣等御帰依あり、法華経の行者は貧道なるゆへに、国こぞってこれをいやしみ候はん時、不軽菩薩のごとく、賢愛論師がごとく申しつをらば身命に及ぶべし。此が第一の大事なるべしとみへて候。此の事は今の日蓮が身にあたれり。予が分斉として弘法大師・慈覚大師・善無畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵なんどを法華経の強敵なり、経文まことならば無間地獄は疑ひなしなんど申すは、裸形にして大火に入るはやすし、須弥山を手にとてなげんはやすし、大石を負ふて大海をわたらんはやすし、日本国にして此の法門を立てんは大事なるべし云云。霊山浄土の教主釈尊・宝浄世界の多宝仏・十方分身の諸仏・地涌千界の菩薩等、梵釈・日月・四天等、冥に加し顕に助け給はずば、一時一日も安穏なるべしや。       
 

平成新編御書 ―872㌻―

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