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『報恩抄』


(★1028㌻)
 仏瞿師羅が為に説きたまはく、若し天・魔・梵・破壊せんと欲するが為に変じて仏の像となり、三十二相八十種好を具足し荘厳し、円光一尋面部円満なること猶月の盛明なるがごとく、眉間の毫相白きこと珂雪に踰え、乃至左の脇より水を出だし右の脇より火を出だす」等云云。又六の巻に云はく「仏迦葉に告げたまはく、我般涅槃して乃至後是の魔波旬漸く当に我が之の正法を沮壊すべし。乃至化して阿羅漢の身及び仏の色身と作り、魔王此の有漏の形を以て無漏の身と作り我が正法を壊らん」等云云。弘法大師は法華経を華厳経・大日経に対して戯論等云云。而も仏身を現ず。此涅槃経には魔、有漏の形をもって仏となって、我が正法をやぶらんと記し給ふ。涅槃経の正法は法華経なり。故に経の次下の文に云はく「久しく已に成仏す」と。又云はく「法華の中の如し」等云云。釈迦・多宝・十方の諸仏は一切経に対して法華経は真実、大日経等の一切経は不真実等云云。弘法大師は仏身を現じて、華厳経・大日経に対して法華経は戯論等云云。仏説まことならば弘法は天魔にあらずや。又三鈷の事殊に不審なり。漢土の人の日本に来たりてほりいだすとも信じがたし。已前に人をやつかわしてうづみけん。いわうや弘法は日本の人、かヽる誑乱其の数多し。此等をもって仏意に叶ふ人の証拠とはしりがたし。
  されば此の真言・禅宗・念仏等やうやくかうなり来たる程に、人王第八十二代尊成隠岐の法王、権大夫殿を失はんと年ごろはげませ給ひけるゆへに、国主なればなにとなくとも師子王の兎を伏するがごとく、鷹の雉を取るやうにこそあるべかりし上、叡山・東寺・園城・奈良・七大寺・天照大神・正八幡・山王・加茂・春日等に数年が間、或は調伏、或は神に申させ給ひしに、二日三日だにもさヽへかねて、佐渡国・阿波国・隱岐国等にながし失せて終にかくれさせ給ひぬ。調伏の上首御室は、但東寺をかへらるヽのみならず、眼のごとくあひせさせ給ひし第一の天童勢多伽が頚切られたりしかば、調伏のしるし還着於本人のゆへとこそ見へて候へ。これはわづかの事なり。此の後定んで日本の国臣万民一人もなく、乾草を積みて火を放つがごとく、
 

平成新編御書 ―1028㌻―

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