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『上野殿御返事』


(★1437㌻)前
 ぬすみせず、かたがたのとがなし。末代の法師にはとがうすき身なれども、文をこのむ王に武のすてられ、いろをこのむ人に正直物のにくまるゝがごとく、念仏と禅と真言と律とを信ずる代に値ひて法華経をひろむれば、王臣万民ににくまれて、結句は山中に候へば、天いかんが計らはせ給ふらむ。五尺のゆきふりて本よりもかよわぬ山道ふさがり、といくる人もなし。衣もうすくてかんふせぎがたし。食たへて命すでにをはりなんとす。かゝるきざみにいのちさまたげの御とぶらい、かつはよろこびかつはなげかし。一度にをもい切ってうへしなんとあんじ切って候ひつるに、わづかのともしびにあぶらを入れそへられたるがごとし。あわれあわれたうとくめでたき御心かな。釈迦仏法華経定めて御計らひ候はんか。恐々謹言。
   十二月廿七日                    日蓮花押    
  上野殿御返事
 

平成新編御書 ―1437㌻―

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