←次へ  TOPへ↑  前へ→  

『浄蔵浄眼御消息』


(★1480㌻)後
 №0415
     浄蔵浄眼御消息    弘安三年七月七日  五九歳
 
  きごめの俵一つ・瓜篭一つ・根芋、品々の物給び候ひ畢んぬ。
  楽徳と名付けゝる長者に身を入れて我が身も妻も子も、夜も昼も責め遣はれける者が、余りに責められ堪へがたさに、隠れて他国に行きて其の国の大王に宮仕へける程に、きりものに成りて関白と成りぬ。後に其の国を力として我が本の主の国を打ち取りぬ。其の時、本の主、此の関白を見て大いに怖れ、前に悪しく当たりぬるを悔ひかへして宮仕へ、様々の財を引きける。前に負けぬる物の事は思ひもよらず、今は只命のいきん事をはげむ。法華経も又斯くの如く、法華経は東方の薬師仏の主、南方西方北方上下の一切の仏の主なり。釈迦仏等の仏の法華経の文字を敬ひ給ふことは、民の王を恐れ、星の月を敬ふが如し。
  然るに我等衆生は第六天の魔王の相伝の者、地獄・餓鬼・畜生等に押し篭められて気もつかず、朝夕獄卒を付けて責むる程に、兎角して法華経に懸かり付きぬれば、釈迦仏等の十方の仏の御子とせさせ給へば、梵王・帝釈だにも恐れて寄り付かず、何に況んや第六天の魔王をや。魔王は前には主なりしかども、今は敬ひ畏れて、あしうせば法華経十方の諸仏の御見参にあしうや入らんずらんと、恐れ畏みて供養をなすなり。
 

平成新編御書 ―1480㌻―

provided by