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『一代聖教大意』


(★96㌻)
 経に云はく「未だ六波羅蜜を修行することを得ずと雖も六波羅蜜自然に在前す」と。我等一戒をも受けざるが持戒の者と云はる文、経に云はく「是則ち勇猛なり是則ち精進なり、是を戒を持ち頭陀を行ずる者と名づく」文。
  問うて云はく、諸経にも悪人が仏に成る。華厳経の調達の授記、普超経の闍王の授記、大集経の婆籔天子の授記。又女人が仏に成る、胎経の釈女の成仏。畜生が仏に成る、阿含経の鴿雀の授記。二乗が仏に成る、方等だらに経・首楞厳経等なり。菩薩の成仏は華厳経等。具縛の凡夫の往生は観経の下品下生等。女人の女身を転ずるは、双観経の四十八願の中の三十五の願。此等は法華経の二乗・竜女・提婆・菩薩の授記に何なるかわりめかある。又設ひかわりめはありとも諸経にても成仏はうたがひなし如何。答ふ、予の習ひ伝ふる所の法門此の答へに顕はるべし。此の答へに法華経の諸経に超過し、又諸経の成仏を許し許さぬは聞こふべし。秘蔵の故に顕露に書さず。
  問うて曰く、妙法を一念三千と云ふ事如何。答ふ、天台大師此の法門を覚り給ひて後、玄義十巻・文句十巻・覚意三昧・小止観・浄名疏・四念処・次第禅門等の多くの法門を説き給ひしかども、此の一念三千をば談義し給はず。但十界百界千如の法門ばかりにておはしましゝなり。御年五十七の夏四月の比、荊州の玉泉寺と申す処にて御弟子章安大師と申す人に説ききかせ給ひし止観十巻あり。上の帖に猶をしみ給ひて但六即・四種三昧等計りの法門にてありしに、五の巻より十境十乗を立てゝ一念三千の法門を書し給へり。此を妙楽大師末代の人に勧進して言はく「並びに三千を以て指南と為す○請ふらくは尋ね読まん者心に異縁無かれ」文。六十巻三千丁の多くの法門も由無し、但此の初めの二・三行を意得べきなり。止観の五に云はく「夫一心に法界を具す、一法界に又十法界を具すれば百法界なり。一界に三十種の世間を具すれば百法界には即ち三千種の世間を具す。此の三千一念の心に在り」文。妙楽承け釈して云はく「当に知るべし身土一念の三千なり。故に成道の時此の本理に称ひて、一身一念法界に遍し」文。
 
 

平成新編御書 ―96㌻―

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