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『十法界明因果抄』


(★211㌻)
 今殺の戒を犯して皆地獄に堕すれども、犯戒の力も王と作るなりと。大仏頂経に云はく、発心の菩薩罪を犯せども、暫く天神地祇と作ると。大随求に云はく、天帝命尽きて忽ち驢の腹に入れども、随求の力に由って還って天上に生ずと。尊勝に云はく、善住天子死後七返、応に畜生の身に堕すべきを尊勝の力に由って還って天の報を得たりと。昔国王有り千車をもって水を運び、仏塔の焼くるを救ふ。自ら憍心を起こして修羅王と作る。昔梁の武帝五百の袈裟を須弥山の五百の羅漢に施す。誌公往いて五百に施すに一を欠く。衆の云はく、罪を犯すも暫く人王と作らんと。即ち武帝是なり。昔国王有りて民を治むること等しからず。今天王と作れども大鬼王と為る。即ち東南西の三天王是なり。拘留孫の末に菩薩と成りて発誓し現に北王と作る、毘沙門是なり」云云。是等の文を以て之を思ふに、小乗戒を持して破る者は六道の民と作り、大乗戒を破する者は六道の王と成り、持する者は仏と成る是なり。
  第七に声聞道とは、此の界の因果をば阿含小乗十二年の経に分明に之を明かせり。諸大乗経に於ても大に対せんが為に亦之を明かせり。声聞に於て四種有り。一には優婆塞、俗男なり。五戒を持し苦・空・無常・無我の観を修し、自調自度の心強くして敢へて化他の意無く、見思を断尽して阿羅漢と成る。此くの如くする時自然に髪を剃るに自ら落つ。二には優婆夷、俗女なり。五戒を持し髪を剃るに自ら落つること男の如し。三には比丘僧なり、二百五十戒 具足戒なり を持して苦・空・無常・無我の観を修し、見思を断じて阿羅漢と成る。此くの如くするの時、髪を剃らざれども生ぜず。四には比丘尼なり。五百戒を持す、余は比丘の如し。一代諸経に列座せる舎利弗・目連等の如き声聞是なり。永く六道に生ぜず、亦仏・菩薩とも成らず、灰身滅智し決定して仏に成らざるなり。小乗戒の手本たる尽形寿の戒は、一度依身を壊れば永く戒の功徳無し。上品を持すれば二乗と成り、中下を持すれば人天に生じて民と為る。之を破れば三悪道に堕して罪人と成るなり。安然和尚の広釈に云はく「三善の世戒は因生じて果を感じ業尽きて悪に堕す。
 
 

平成新編御書 ―211㌻―

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