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『唱法華題目抄』


(★217㌻)
 
 №0030 唱法華題目抄   (文応元年五月二八日  三九歳)
  有る人予に問うて云はく、世間の道俗させる法華経の文義を弁へずとも、一部・一巻・四要品・自我偈・一句等を受持し、或は自らもよみかき、若しは人をしてもよみかゝせ、或は我とよみかゝざれども経に向かひ奉り、合掌礼拝をなし、香華を供養し、或は上の如く行ずる事なき人も、他の行ずるを見てわづかに随喜の心ををこし国中に此の経の弘まれる事を悦ばん。是体の僅かの事によりて世間の罪にも引かれず、彼の功徳に引かれて小乗の初果の聖人の度々人天に生まれて、而も悪道に堕ちざるがごとく、常に人天の生をうけ、終に法華経を心得るものと成って十方浄土にも往生し、又此の土に於ても即身成仏する事有るべきや、委細に之を聞かん。答へて云はく、させる文義を弁へたる身にはあらざれども、法華経・涅槃経並びに天台・妙楽の釈の心をもて推し量るに、かりそめにも法華経を信じて聊も謗を生ぜざらん人は、余の悪にひかれて悪道に堕つべしとはおぼえず。但し悪知識と申してわづかに権教を知れる人、智者の由をして法華経を我等が機に叶ひ難き由を和らげ申さんを誠と思ひて、法華経を随喜せし心を打ち捨て余教へ移りはてゝ、一生さて法華経へ帰り入らざん人は、悪道に堕つべき事も有りなん。
  仰せに付いて疑はしき事侍り。実にてや侍るらん、法華経に説かれて候とて智者の語らせ給ひしは、昔三千塵点劫の当初大通智勝仏と申す仏います。其の仏の凡夫にていましける時十六人の王子をはします。彼の父の王仏にならせ給ひて、一代聖教を説き給ひき。十六人の王子も亦出家して其の仏の御弟子とならせ給ひけり。大通智勝仏法華経を説き畢らせ給ひて定に入らせ給ひしかば、十六人の王子の沙弥其の前にしてかはるがはる法華経を講じ給ひけり。
 
 

平成新編御書 ―217㌻―

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