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『法華題目抄』


(★358㌻)
 此等を法華経にをいて仏になさせ給ふ故に法華経を妙とは云ふなり。
  提婆達多は斛飯王の第一の太子、浄飯王にはをひ、阿難尊者がこのかみ、教主釈尊にはいとこ、南閻浮提にかろからざる人なり。須陀比丘を師として出家し、阿難尊者に十八変をならひ、外道の六万蔵・仏の八万蔵を胸にうかべ、五法を行じて殆ど仏よりも尊きけしきなり。両頭を立てゝ破僧罪を犯さんがために象頭山に戒壇を築き、仏弟子を招き取り、阿闍世太子をかたらいて云はく、我は仏を殺して新仏となるべし。太子は父の王を殺して新王となり給へ。阿闍世太子すでに父の王を殺せしかば提婆達多又仏をうかゞい、大石をもちて仏の御身より血をいだし、阿羅漢たる華色比丘尼を打ちころし、五逆の内たる三逆をつぶさにつくる。其の上瞿伽梨尊者を弟子とし、阿闍世王を檀那とたのみ、五天竺十六の大国、五百の中国等の一逆二逆三逆等をつくれる者、皆提婆が一類にあらざる事これなし。譬へば大海の諸河をあつめ、大山の草木をあつめたるがごとし。智慧の者は舎利弗にあつまり、神通の者は目蓮にしたがひ、悪人は提婆にかたらいしなり。されば厚さ十六万八千由旬、其の下に金剛の風輪ある大地すでにわれて、生身に無間大城に堕ちにき。第一の弟子瞿伽梨も又生身に地獄に入る。旃遮婆羅門女もをちにき。波瑠璃王もをちぬ。善星比丘もをちぬ。此等の人々の生身に堕ちしをば五天竺十六の大国・五百の中国・十千の小国の人々も皆これをみる。六欲・四禅・色・無色・梵王・帝釈・第六天の魔王も閻魔法王等も皆御覧ありき。三千大千世界十方法界の衆生も皆聞きしなり。されば大地微塵劫はすぐとも無間大城を出づべからず。劫石はひすらぐとも阿鼻大城の苦はつきじとこそ思ひ合ひたりしに、法華経の提婆品にして、教主釈尊の昔の師天王如来と記し給ふ事こそ不思議にはをぼゆれ。爾前の経々実ならば法華経は大妄語、法華経実ならば爾前の諸経は大虚誑罪なり。提婆が三逆罪を具に犯して、其の外無量の重罪を作りしも天王如来となる。況んや二逆一逆等の諸の悪人の得道疑ひなき事、譬へば大地をかへすに草木等のかへるがごとく、
 

平成新編御書 ―358㌻―

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