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『開目抄㊤』


(★526㌻)
 法華経に云はく「衆に三毒有りと示し又邪見の相を現ず、我が弟子是くの如く方便して衆生を度す」等云云。
  三には大覚世尊、此一切衆生の大導師・大眼目・大橋梁・大船師・大福田等なり。外典外道の四聖三仙、其の名は聖なりといえども実には三惑未断の凡夫、其の名は賢なりといえども実に因果を弁へざる事嬰児のごとし。彼を船として生死の大海をわたるべしや。彼を橋として六道の巷こえがたし。我が大師は変易猶わたり給へり。況んや分段の生死をや。元品の無明の根本猶かたぶけ給へり。況んや見思枝葉の麁惑をや。此の仏陀は三十成道より八十御入滅にいたるまで、五十年が間一代の聖教を説き給へり。一字一句皆真言なり。一文一偈妄語にあらず。外典外道の中の聖賢の言すら、いうことあやまりなし。事と心と相符へり。況んや仏陀は無量曠劫よりの不妄語の人、されば一代五十余年の説教は外典外道に対すれば大乗なり。大人の実語なるべし。初成道の初めより泥・の夕べにいたるまで、説くところの所説皆真実なり。
  但し仏教に入りて五十余年の経々、八万法蔵を勘へたるに、小乗あり大乗あり、権経あり実経あり、顕教・密経、軟語・麁語、実語・妄語、正見・邪見等の種々の差別あり。但し法華経計り教主釈尊の正言なり。三世十方の諸仏の真言なり。大覚世尊は四十余年の年限を指して、其の内の恒河の諸経を未顕真実、八年の法華は要当説真実と定め給ひしかば、多宝仏大地より出現して皆是真実と証明す。分身の諸仏来集して長舌を梵天に付く。此の言赫々たり、明々たり。晴天の日よりもあきらかに、夜中の満月のごとし。仰いで信ぜよ、伏して懐ふべし。
  但し此の経に二箇の大事あり。倶舎宗・成実宗・律宗・法相宗・三論宗等は名をもしらず。華厳宗と真言宗との二宗は偸かに盗んで自宗の骨目とせり。一念三千の法門は但法華経の本門寿量品の文の底にしづめたり。竜樹天親は知って、しかもいまだひろいいださず、但我が天台智者のみこれをいだけり。
  一念三千は十界互具よりことはじまれり。法相と三論とは八界を立てゝ十界をしらず。況んや互具をしるべしや。
 

平成新編御書 ―526㌻―

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