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『開目抄㊤』


(★528㌻)
 自宗をばすてねども其の心天台に帰伏すと見へたり。華厳宗と真言宗とは本は権経権宗なり。善無畏三蔵・金剛智三蔵、天台の一念三千の義を盗みとって自宗の肝心とし、其の上に印と真言とを加へて超過の心ををこす。其の子細をしらぬ学者等は、天竺より大日経に一念三千の法門ありけりとうちをもう。華厳宗は澄観が時、華厳経の心如工画師の文に天台の一念三千の法門を偸み入れたり、人これをしらず。
  日本我が朝には華厳等の六宗、天台真言已前にわたりけり。華厳・三論・法相、諍論水火なりけり。伝教大師此の国にいでて、六宗の邪見をやぶるのみならず、真言宗が天台法華経の理を盗み取って自宗の極とする事あらわれをはんぬ。伝教大師宗々の人師の異執をすてゝ専ら経文を前として責めさせ給ひしかば、六宗の高徳八人・十二人・十四人・三百余人並びに弘法大師等せめをとされて、日本国一人もなく天台宗に帰伏し、南都・東寺・日本一州の山寺、皆叡山の末寺となりぬ。又漢土の諸宗の元祖の天台に帰伏して謗法の失をまぬかれたる事もあらわれぬ。又其の後やうやく世をとろへ人の智あさくなるほどに、天台の深義は習ひうしないぬ。他宗の執心は強盛になるほどに、やうやく六宗七宗に天台宗をとされて、よわりゆくかのゆへに、結句は六宗七宗等にもをよばず。いうにかいなき禅宗・浄土宗にをとされて、始めは檀那やうやくかの邪宗にうつる。結句は天台宗の碩徳と仰がるゝ人々みなをちゆきて彼の邪宗をたすく。さるほどに六宗八宗の田畠所領みなたをされ、正法失せはてぬ。天照太神・正八幡・山王等諸の守護の諸大善神も法味をなめざるか、国中を去り給ふかの故に、悪鬼便りを得て国すでに破れなんとす。
  此に予愚見をもって前四十余年と後八年との相違をかんがへみるに、其の相違多しといえども、先づ世間の学者もゆるし、我が身にもさもやとうちをぼうる事は二乗作仏・久遠実成なるべし。
  法華経の現文を拝見するに、舎利弗は華光如来、迦葉は光明如来、須菩提は名相如来、迦旃延は閻浮那提金光如来、
 

平成新編御書 ―528㌻―

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