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『開目抄㊤』


(★532㌻)
  而るを後八年の法華経に忽ちに悔い還して、二乗作仏すべしと、仏陀とかせ給はんに、人天大会、信仰をなすべしや。用ゆべからざる上、先後の経々に疑網をなし、五十余年の説教皆虚妄の説となりなん。されば四十余年未顕真実等の経文はあらませしが、天魔の仏陀と現じて、後八年の経をばとかせ給ふかと疑網するところに、げにげにしげに劫国名号と申して、二乗成仏の国をさだめ、劫をしるし、所化の弟子なんどを定めさせ給へば、教主釈尊の御語すでに二言になりぬ。自語相違と申すはこれなり。外道が仏陀を大妄語の者と咲ひしことこれなり。
  人天大会けをさめてありし程に、爾の時に東方宝浄世界の多宝如来、高さ五百由旬、広さ二百五十由旬の大七宝塔に乗じて、教主釈尊の人天大会に自語相違をせめられて、とのべかうのべ、さまざまに宣べさせ給ひしかども、不審猶はべしとも見へず、もてあつかいてをはせし時、仏前に大地より涌現して虚空にのぼり給ふ。例せば、暗夜に満月の東山より出づるがごとし。七宝の塔大虚にかゝらせ給ひて、大地にもつかず、大虚にも付かせ給わず。天中に懸かりて、宝塔の中より梵音声を出だして証明して云はく「爾の時に宝塔の中より大音声を出だして歎めて言はく、善きかな善きかな、釈迦牟尼世尊、能く平等大慧・教菩薩法・仏所護念の妙法華経を以て、大衆の為に説きたまふ。是くの如し是くの如し。釈迦牟尼世尊の所説の如きは皆是真実なり」等云云。又云はく「爾の時に世尊、文殊師利等の、無量百千万億・旧住娑婆世界の菩薩、乃至人非人等一切の衆の前に於て、大神力を現じたまふ。広長舌を出だして、上梵世に至らしめ、一切の毛孔より、乃至十方世界、衆の宝樹の下の、師子の座の上の諸仏も、亦復是くの如く、広長舌を出だし無量の光を放ちたまふ」等云云。又云はく「十方より来たりたまへる諸の分身の仏をして、各本土に還らしめ、乃至多宝仏の塔、還って故の如くしたまふべし」等云云。
  大覚世尊初成道の時、諸仏十方に現じて釈尊を慰喩し給ふ上、諸の大菩薩を遣はしき。般若経の御時は、釈尊長舌を三千にをほひ、千仏十方に現じ給ふ。金光明経には、四方の四仏現ぜり。阿弥陀経には六方の諸仏、舌を三千にをゝう。
 

平成新編御書 ―532㌻―

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