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『佐渡御書』


(★579㌻)
 雪山童子・薩埵王子は、身を布施とせば法を教へん、菩薩の行となるべしと責めしかば身をすつ。肉をほしがらざる時、身を捨つべきや。紙なからん世には身の皮を紙とし、筆なからん時は骨を筆とすべし。破戒無戒を毀り、持戒正法を用ひん世には、諸戒を堅く持つべし。儒教・道教を以て釈教を制止せん日には、道安法師・慧遠法師・法道三蔵等の如く、王と論じて命を軽うすべし。釈教の中に小乗・大乗・権経・実経雑乱して明珠と瓦礫と牛驢の二乳を弁へざる時は、天台大師・伝教大師等の如く大小・権実・顕密を強盛に分別すべし。畜生の心は弱きをおどし強きをおそる。当世の学者等は畜生の如し。智者の弱きをあなづり王法の邪をおそる。諛臣と申すは是なり。強敵を伏して始めて力士をしる。悪王の正法を破るに、邪法の僧等が方人をなして智者を失はん時は、師子王の如くなる心をもてる者必ず仏になるべし。例せば日蓮が如し。これおごれるにはあらず、正法を惜しむ心の強盛なるべし。おごる者は必ず強敵に値ひておそるゝ心出来するなり。例せば修羅のおごり、帝釈にせめられて、無熱池の蓮の中に小身と成りて隠れしが如し。正法は一字一句なれども時機に叶ひぬれば必ず得道なるべし。千経万論を習学すれども、時機に相違すれば叶ふべからず。
  宝治の合戦すでに二十六年、今年二月十一日十七日又合戦あり。外道悪人は如来の正法を破りがたし。仏弟子等必ず仏法を破るべし。「師子身中の虫の師子を食む」等云云。大果報の人をば他の敵やぶりがたし。親しみより破るべし。薬師経に云はく「自界叛逆難」是なり。仁王経に云はく「聖人去る時七難必ず起こらん」云云。金光明経に云はく「三十三天各瞋恨を生ずるは、其の国王悪を縦にして治せざるに由る」等云云。
  日蓮は聖人にあらざれども、法華経を説の如く受持すれば聖人の如し。又世間の作法兼ねて知るによって、注し置くこと是違ふべからず。現世に云ひをく言の違はざらんをもて後生の疑ひをなすべからず。日蓮は此の関東の御一門の棟梁なり、日月なり、亀鏡なり、眼目なり、日蓮捨て去る時七難必ず起こるべしと、
 

平成新編御書 ―579㌻―

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