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『日妙聖人御書』


(★604㌻)
 時に大鬼神ありき。説ひて云はく「諸行無常是生滅法」等云云。只八字計りを説いて後をとかず。時に雪山童子此の八字をえて悦びきわまりなけれども、半ばなる如意珠を得たるがごとく、花さきて菓ならざるににたり。残りの八字をきかんと申す時、大鬼神の云はく、我数日が間飢饉して正念を乱る。ゆへに後の八字をときがたし。食をあたえよ云云。時に童子問ふて云はく、なにをか食とする。鬼神答へて云はく、我は人のあたゝかなる血肉なり。我飛行自在にして、須臾の間に四天下を回ってたずぬれども、あたゝかなる血肉得がたし。人をば天まぼり給ふゆへに失なければ殺害する事かたし等云云。童子の云はく、我が身を布施として彼の八字を習ひ伝へんと云云。鬼神云はく、智慧甚だ賢し。我をやすかさんずらん。童子答へて云はく、瓦礫を金銀をかへんに是をかへざるべしや。我徒に此の山にして死しなば、鴟梟虎狼に食らはれて、一分の功徳なかるべし。後の八字にかえなば糞を飯にかふるがごとし。鬼の云はく、我いまだ信ぜず。童子云はく、証人あり。過去の仏もたて給ひし大梵天王・釈提桓因・日・月・四天も証人にたち給ふべし。此の鬼神後の偈をとかんと申す。童子身にきたる鹿の皮をぬいで座にしき、踞跪合掌して此の座につき給へと請ず。大鬼神此の座について説ひて云はく、「生滅滅已寂滅為楽」等云云。此の偈を習ひ学して、若しは木若しは石等に書き付けて、身を大鬼神の口になげいれ給ふ。彼の童子は今の釈尊、彼の鬼神は今の帝釈なり。
  薬王菩薩は法華経の御前に臂を七万二千歳が間ともし給ひ、不軽菩薩は多年が間二十四字のゆへに無量無辺の四衆に罵詈毀辱・杖木瓦礫・而打擲之せられ給ひき。所謂二十四字と申すは「我深く汝等を敬ふ敢て軽慢せず所以は何かん汝等皆菩薩の道を行じて当に作仏することを得べし」等云云。かの不軽菩薩は今の教主釈尊なり。昔の須頭檀王は妙法蓮華経の五字の為に千歳が間阿私仙人にせめつかはれ、身を床となさせ給ひて今の釈尊となり給ふ。
 

平成新編御書 ―604㌻―

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