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『南部六郎三郎殿御返事』


(★683㌻)
 然りと雖も円定・円慧に於ては之を弘宣して、円戒は未だ之を弘めず。仏滅後一千八百年に入って日本の伝教大師世に出現して、欽明より已来二百余年の間六宗の邪義之を破失す。其の上天台の未だ弘めたまはざる円頓戒之を弘宣したまふ。所謂叡山円頓の大戒是なり。但し仏滅後二千余年三朝の間数万の寺々之有り。然りと雖も本門の教主の寺塔、地涌千界の菩薩の別に授与したまふ所の妙法蓮華経の五字未だ之を弘通せず。経文には有って国土には無し、時機の未だ至らざる故か。仏記して云はく「我が滅度の後、後五百歳の中に広宣流布し閻浮提に於て断絶せしむること無けん」等云云。天台記して云はく「後五百歳遠く妙道に沾はん」等云云。伝教大師記して云はく「正像稍過ぎ已はって末法太だ近きに有り、法華一乗の機今正しく是其の時なり」等云云。此等の経釈は末法の始を指し示すなり。外道記して云はく「我が滅後一百年に当たって仏世に出でたまふ」云云。儒家記して云はく「一千年の後仏法漢土に渡る」等云云。是くの如き凡人の記文すら尚以て符契の如し。況んや伝教・天台をや。何に況んや釈迦・多宝の金口の明記をや。当に知るべし、残る所の本門の教主妙法の五字、一閻浮提に流布せんこと疑ひ無き者か。
  但し日蓮法師に度々之を聞きたる人々猶此の大難に値っての後之を捨つるか。貴辺は之を聞きたまふこと一両度、一時二時か。然りと雖も未だ捨てたまはず御信心の由之を聞く、偏に今生の事に非じ。妙楽大師の云はく「故に知んぬ。末代一時に聞くことを得、聞き已はって信を生ずること宿種なるべし」等云云。又云はく「運像末に居し此の真文を矚る。妙因を植えたるに非ざるよりは実に遇ひ難しと為す」等云云。法華経に云はく「過去に十万億の仏を供養せし人、人間に生まれて此の法華を信ぜん」と。
 

平成新編御書 ―683㌻―

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