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『法華取要抄』


(★732㌻)
 智円扇に発して仰いで天月を見る。非を捨てゝ理を取るは智人なり。今末の論師、本の人師の邪義を捨て置いて専ら本経本論を引き見るに、五十余年の諸経の中に法華経第四法師品の中の已今当の三字最も第一なり。諸の論師、諸の人師定めて此の経文を見けるか。然りと雖も或は相似の経文に狂ひ、或は本師の邪会に執し、或は王臣等の帰依を恐るゝか。所謂金光明経の「是諸経之王」、密厳経の「一切経中勝」、六波羅蜜経の「総持第一」、大日経の「云何菩提」、華厳経の「能信是経最為難」、般若経の「会入法性不見一事」、大智度論の「般若波羅蜜最第一」、涅槃論の「今日涅槃理」等なり。此等の諸文は法華経の已今当の三字に相似せる文なり。然りと雖も或は梵帝・四天等の諸経に対当すれば是諸経の王なり。或は小乗経に相対すれば諸経中王なり。或は華厳・勝鬘等の経に相対すれば一切経中勝なり。全く五十余年の大小・権実・顕密の諸経に相対して是諸経の王の大王なるに非ず。所詮所対を見て経々の勝劣を弁ふべきなり。強敵を臥伏するに始めて大力を知見する是なり。其の上諸経の勝劣は釈尊一仏の浅深なり。全く多宝分身の助言を加ふるに非ず。私説を以て公事に混ずること勿れ。諸経は或は二乗凡夫に対揚して小乗経を演説し、或は文殊・解説月・金剛薩埵等の弘伝の菩薩に対向して、全く地涌千界の上行等には非ず。
  今法華経と諸経とを相対するに一代に超過すること廿種之有り。其の中最要二有り。所謂三・五の二法なり。三とは三千塵点劫なり。諸経は或は釈尊の因位を明かすこと、或は三祇、或は動喩塵劫、或は無量劫なり。梵王の云はく、此の土には廿九劫より已来知行の主なり。第六天・帝釈・四天王等も以て是くの如し。釈尊と梵王等と始めて知行の先後之を諍論す。爾りと雖も一指を挙げて之を降伏してより已来、梵天頭を傾け魔王掌を合はせ三界の衆生をして釈尊に帰伏せしむる是なり。又諸仏の因位と釈尊の因位と之を糾明するに、諸仏の因位は或は三祇或は五劫等なり。釈尊の因位は既に三千塵点劫より已来娑婆世界の一切衆生の結縁の大士なり。
 

平成新編御書 ―732㌻―

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