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『法蓮抄』


(★812㌻)
 此を妙楽大師釈して云はく「稗飯軽しと雖も所有を尽くし、及び田勝るゝを以ての故に勝るゝ報を得る」等云云。釈の心はひえの飯は軽しといへども貴き辟支仏を供養する故に、かゝる大果報に度々生まるとこそ書かれて候へ。又菩薩と申すは文殊・弥勒等なり。此の大菩薩等は彼の辟支仏に似るべからざる大人なり。仏は四十二品の無明と申す闇を破る妙覚の仏なり。八月十五夜の満月のごとし。此の菩薩等は四十一品の無明をつくして等覚の山の頂にのぼり、十四夜の月のごとし。仏と申すは上の諸人には百千万億倍すぐれさせ給へる大人なり。仏には必ず三十二相あり。其の相と申すは梵音声・無見頂相・肉髻相・白毫相・乃至千輻輪相等なり。此の三十二相の中の一相をば百福を以て成じ給へり。百福と申すは、仮令大医ありて日本国、漢土、五天竺の十六の大国・五百の中国・十千の小国、乃至一閻浮提・四天下・六欲天・乃至三千大千世界の一切衆生の眼の盲たるを、本の如く一時に開けたらんほどの大功徳を一つの福として、此の福百をかさねて候はんを以て三十二相の中の一相を成ぜり。されば此の一相の功徳は三千大千世界の草木の数よりも多く、四天下の雨の足よりもすぎたり。設ひ壊劫の時僧佉陀と申す大風ありて、須弥山を吹き抜いて色究竟天にあげてかへて微塵となす大風なり。然れども仏の御身の一毛をば動かさず。仏の御胸に大火あり。平等大慧大智光明火坑三昧と云ふ。涅槃の時は此の大火を胸より出だして一身を焼き給ひしかば、六欲四海の天神・竜衆等、仏を惜しみ奉る故にあつまりて大雨を下らし、三千の大地を水となし、須弥は流るといへども此の大火はきへず。仏にはかゝる大徳ましますゆへに、阿闍世王は十六大国の悪人を集め、一四天下の外道をかたらひ、提婆を師として無量の悪人を放ちて仏弟子をのりうち、殺害せしのみならず賢王にてとがもなかりし父の大王を、一尺の釘をもて七処までうちつけ、はつけにし、生母をば玉のかんざしをつかみ、刀を頭にあてし重罪のつもり、悪瘡七処に出でて、三七日を経て三月七日に大地破れて無間地獄に堕ちて一劫を経べかりしかども、仏の所に詣で悪瘡いゆるのみならず、
 

平成新編御書 ―812㌻―

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