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『高橋入道殿御返事』


(★887㌻)
  其の故は我が滅後の一切衆生は皆我が子なり、いづれも平等に不便にをもうなり。しかれども医師の習ひ、病に随ひて薬をさづくる事なれば、我が滅後五百年が間は迦葉・阿難等に小乗経の薬をもって一切衆生にあたへよ。次の五百年が間は文殊師利菩薩・弥勒菩薩・竜樹菩薩・天親菩薩等、華厳経・大日経・般若経等の薬を一切衆生にさづけよ。我が滅後一千年すぎて像法の時には薬王菩薩・観世音菩薩等、法華経の題目を除いて余の法門の薬を一切衆生にさづけよ。末法に入りなば迦葉・阿難等、文殊・弥勒菩薩等、薬王・観音等のゆづられしところの小乗経・大乗経並びに法華経は、文字はありとも衆生の病の薬とはなるべからず。所謂病は重し薬はあさし。其の時上行菩薩出現して妙法蓮華経の五字を一閻浮提の一切衆生にさづくべし。其の時一切衆生此の菩薩をかたきとせん。所謂さるのいぬをみるがごとく、鬼神の人をあだむがごとく、過去の不軽菩薩の一切衆生にのりあだまれしのみならず、杖木瓦礫にせめられし、覚徳比丘が殺害に及ばれしがごとくなるべし。
  其の時は迦葉・阿難等も或は霊山にかくれ、恒河に没し、弥勒・文殊等も或は兜率の内院に入り、或は香山に入らせ給ひ、観世音菩薩は西方にかへり、普賢菩薩は東方にかへらせ給ふ。諸経は行ずる人はありとも、守護の人なければ利生あるべからず。諸仏の名号は唱ふるものありとも、天神これをかごすべからず。但小牛の母をはなれ、金鳥のたかにあへるがごとくなるべし。其の時十方世界の大鬼神一閻浮提に充満して四衆の身に入り、或は父母をがいし、或は兄弟等を失はん。殊に国中の智者げなる持戒げなる僧尼の心に此の鬼神入って、国主並びに臣下をたぼらかさん。此の時上行菩薩の御かびをかほりて法華経の題目南無妙法蓮華経の五字計りを一切衆生にさづけば、彼の四衆等並びに大僧等此の人をあだむ事、父母のかたき宿世のかたき朝敵・怨敵のごとくあだむべし。其の時大いなる天変あるべし。所謂日月蝕し、大いなる彗星天にわたり、大地震動して水上の輪のごとくなるべし。其の後は自界叛逆難と申して国主・兄弟並びに国中の大人を打ちころし、
 

平成新編御書 ―887㌻―

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