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『妙心尼御前御返事』


(★900㌻)
 №0212
     妙心尼御前御返事 建治元年八月一六日  五四歳
 
  あわしがき二篭、なすび一こ給び候ひ了んぬ。
  入道殿の御所労の事、唐土に黄帝・扁鵲と申せしくすしあり、天竺に持水・耆婆と申せしくすしあり。これらはその世のたから、末代のくすしの師なり。仏と申せし人は、これにはにるべくもなきいみじきくすしなり。この仏不死の薬をとかせ給へり。今の妙法蓮華経の五字是なり。しかもこの五字をば「閻浮提人、病之良薬」とこそとかれて候へ。
  入道殿は閻浮提の内日本国の人なり。しかも身に病をうけられて候。「病之良薬」の経文顕然なり。其の上蓮華経は第一の薬なり。はるり王と申せし悪王、仏のしたしき女人五百余人を殺して候ひしに、仏、阿難を雪山につかはして青蓮華をとりよせて身にふれさせ給ひしかば、よみがへりて七日ありて・利天に生まれにき。蓮華と申す花はかゝるいみじき徳ある花にて候へば、仏、妙法にたとへ給へり。又人の死ぬる事はやまひにはよらず。当時のゆき・つしまのものどもは病なけれども、みなみなむこ人に一時にうちころされぬ。病あれば死ぬべしという事不定なり。又このやまひは仏の御はからひか。そのゆへは浄名経・涅槃経には病ある人、仏になるべきよしとかれて候。病によりて道心はおこり候か。又一切の病の中には五逆罪と一闡提と謗法をこそ、おもき病とは仏はいたませ給へ。今の日本国の人は一人もなく極大重病あり、所謂大謗法の重病なり。今の禅宗・念仏宗・律宗・真言師なり。これらはあまりに病おもきゆへに、我が身にもおぼへず人もしらぬ病なり。この病のこうずるゆへに、四海のつわものたゞいま来たりなば、王臣万民みなしづみなん。
 

平成新編御書 ―900㌻―

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