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『光日房御書』


(★963㌻)
 母又、他の夫にとつぎしかば、又母をも殺しつ。具に三逆罪をつくりしかば、隣里の人うとみしかば一身たもちがたくして、祇洹精舎にゆいて出家をもとめしに、諸僧許さゞりしかば、悪心強盛にして多くの僧坊をやきぬ。然れども釈尊に値ひ奉りて出家をゆるし給ひにき。北天竺に城あり、細石となづく。彼の城に王あり、竜印という。父を殺してありしかども、後に此をおそれて彼の国をすてゝ仏にまいりたりしかば、仏懺悔を許し給ひき。阿闍世王はひとゝなり三毒熾盛なり、十悪ひまなし。其の上父をころし、母を害せんとし、提婆達多を師として無量の仏弟子を殺しぬ。悪逆のつもりに、二月十五日仏の御入滅の日にあたりて無間地獄の先相に、七処に悪瘡出生して玉体しづかならず。大火の身をやくがごとく、熱湯をくみかくるがごとくなりしに、六大臣まいりて六師外道を召されて、悪瘡を治すべきやう申しき。今の日本国の人々の、禅師・律師・念仏者・真言師等を善知識とたのみて蒙古国を調伏し、後生をたすからんとをもうがごとし。其の上、提婆達多は阿闍世王の本師なり。外道の六万蔵、仏法の八万蔵をそらにして、世間・出世のあきらかなる事、日月と明鏡とに向かふがごとし。今の世の天台宗の碩学の顕密二道を胸にうかべ、一切経をそらんぜしがごとし。此等の人々諸の大臣並びに、阿闍世王を教訓せしかば、仏に帰依し奉る事なかりし程に、摩竭提国に天変度々かさなり、地夭しきりなる上、大風・大旱ばつ・飢饉・疫癘ひまなき上、他国よりせめられて、すでにかうとみえしに、悪瘡すら身に出でしかば、国土一時にほろびぬとみえし程に、俄かに仏前にまいり、懺悔して罪きえしなり。
  これらはさてをき候ひぬ。人のをやは悪人なれども、子善人なればをやの罪ゆるす事あり。又、子悪人なれども、親善人なれば子の罪ゆるさるゝ事あり。されば故弥四郎殿は設ひ悪人なりとも、うめる母釈迦仏の御宝前にして昼夜なげきとぶらはゞ、争でか彼の人うかばざるべき。いかにいわうや、彼の人は法華経を信じたりしかば、をやをみちびく身とぞなられて候らん。
 

平成新編御書 ―963㌻―

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