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『妙法比丘尼御返事』


(★1260㌻)
 天変と申して彗星長く東西に渡り、地夭と申して大地をくつがへすこと大海の船を大風の時大波のくつがへすに似たり。大風吹いて草木をからし、飢饉も年々にゆき、疫病月々におこり、大旱魃ゆきて河池・田畠皆かはきぬ。此くの如く三災七難数十年起こりて民半分に減じ、残りは或は父母、或は兄弟、或は妻子にわかれて歎く声秋の虫にことならず。家々のちりうする事、冬の草木の雪にせめられたるに似たり。是はいかなる事ぞと経論を引き見候へば、仏の言さく、法華経と申す経を謗じ我を用ひざる国あらばかゝる事あるべしと、仏の記しをかせ給ひて候御言にすこしもたがひ候はず。
  日蓮疑って云はく、日本には誰か法華経と釈迦仏をば謗ずべきと疑ふ。又たまさか謗ずる者は少々ありとも、信ずる者こそ多くあるらめと存じ候。爰に此の日本の国、人ごとに阿弥陀堂をつくり念仏を申す。其の根本を尋ぬれば、道綽禅師・善導和尚・法然上人と申す三人の言より出でて候。是は浄土宗の根本、今の諸人の御師なり。此の三人の念仏を弘めさせ給ひし時にのたまはく、未有一人得者、千中無一、捨閉閣抛等云云。いふこゝろは、阿弥陀仏をたのみ奉らん人は、一切の経・一切の仏・一切の神をすてゝ但阿弥陀仏・南無阿弥陀仏と申すべし。其の上ことに法華経と釈迦仏を捨てまいらせよとすゝめしかば、やすきまゝに案もなくばらばらと付き候ひぬ。一人付き始めしかば万人皆付き候ひぬ。万人付きしかば上は国主、中は大臣、下は万民一人も残る事なし。さる程に此の国存じの外に釈迦仏・法華経の御敵人となりぬ。其の故は「今此の三界は皆是我が有なり。其の中の衆生は悉く是吾が子なり。而も今此の処は諸の患難多し。唯我一人のみ能く救護を為す」と説いて、此の日本国の一切衆生のためには釈迦仏は主なり、師なり、親なり。天神七代・地神五代・人王九十代の神と王とすら猶釈迦仏の所従なり。何に況んや其の神と王との眷属等をや。今日本国の大地・山河・大海・草木等は皆釈尊の御財ぞかし。全く一分も薬師仏・阿弥陀仏等の他仏の物にはあらず。又日本国の天神・地神・九十余代の国主並びに万民牛馬、生きとし生ける生ある者は皆教主釈尊の一子なり。又日本国の天神・地神・諸王・万民等の天地・水火・
 

平成新編御書 ―1260㌻―

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