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『兵衛志殿御返事』


(★1294㌻)
 №0346
     兵衛志殿御返事   弘安元年一一月二九日  五七歳
 
  銭六貫文の内一貫次郎よりの分、白厚綿の小袖一領、四季にわたりて財を三宝に供養し給ふ。いづれもいづれも功徳にならざるはなし。但し時に随ひて勝劣浅深わかれて候。うへたる人には衣をあたへたるよりも、食をあたへて候はいますこし功徳まさる。こごへたる人には食をあたへて候よりも、衣は又まさる。春夏に小袖をあたえて候よりも、秋冬にあたへぬれば又功徳一倍なり。これをもって一切はしりぬべし。たゞし此の事にをいては四季を論ぜず、日月をたゞさず、ぜに・こめ・かたびら・きぬこそで、日々月々にひまなし。例せばびんばしらわうの教主釈尊に日々日々に五百輌の車ををくり、阿育大王の十億の沙金を鶏頭摩寺にせゝしがごとし。大小ことなれども志はかれにもすぐれたり。其の上今年は子細候。ふゆと申すふゆ、いづれのふゆかさむからざる。なつと申すなつ、又いづれのなつかあつからざる。たゞし今年は余国はいかんが候らめ、このはきゐは法にすぎてかんじ候。ふるきをきなどもにとひ候へば、八十・九十・一百になる者の物語り候は、すべていにしへこれほどさむき事候はず。此のあんじちより四方の外十丁・二十丁は人かよう事候はねばしり候はず。きんぺん一丁二丁のほどは、ゆき一丈・二丈・五尺等なり。このうるう十月卅日ゆきすこしふりて候ひしが、やがてきへ候ひぬ。この月の十一日たつの時より十四日まで大雪下りて候ひしに、両三日へだてゝすこし雨ふりて、ゆきかたくなる事金剛のごとし。いまにきゆる事なし。ひるもよるもさむくつめたく候事、法にすぎて候。さけはこをりて石のごとし。あぶらは金ににたり。なべ・かまに小水あればこをりてわれ、かんいよいよかさなり候へば、きものうすく食ともしくして、さしいづるものもなし。
 

平成新編御書 ―1294㌻―

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