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『松野殿後家尼御前御返事』


(★1357㌻)
 師子と犬と、日輪と星との光くらべのごとし。譬へば鷹と雉とのひとしからざるがごとし。故に四衆とりどりにそねみ、上下同じくにくむ。讒人国に充満して奸人土に多し。故に劣を取りて勝をにくむ。譬へば犬は勝れたり師子をば劣れり、星をば勝れ日輪をば劣るとそしるが如し。然る間邪見の悪名世上に流布し、やゝもすれば讒訴し、或は罵詈せられ、或は刀杖の難をかふる。或は度々流罪にあたる。五の巻の経文にすこしもたがはず。さればなむだ左右の眼にうかび、悦び一身にあまれり。
  こゝに衣は身をかくしがたく、食は命をさゝへがたし。例せば蘇武が胡国にありしに、雪を食として命をたもつ。伯夷は首陽山にすみし、蕨ををりて身をたすく。父母にあらざれば誰か問ふべき。三宝の御助けにあらずんばいかでか一日片時も持つべき。未だ見参にも入らず候人の、かやうに度々御をとづれのはんべるはいかなる事にや、あやしくこそ候へ。法華経の第四の巻には、釈迦仏凡夫の身にいりかはらせ給ひて、法華経の行者をば供養すべきよしを説かれて候。釈迦仏の御身に入らせ給ひ候か、又過去の善根のもよをしか。竜女と申す女人は法華経にて仏に成りて候へば、末代に此の経を持ちまいらせん女人をまぼらせ給ふべきよし誓はせ給ひし其の御ゆかりにて候か、貴し貴し。
   三月二十六日                    日蓮花押    
  松野殿後家尼御前御返事
 

平成新編御書 ―1357㌻―

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