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『法華本門宗血脈相承事』


(★1679㌻)
  五に住不思議顕観。文に云はく「理は造作に非ず故に天真と曰ひ、証智円明なるが故に独朗と云ふ」云々。釈の意は口唱首題の理に造作無し、今日熟脱の本迹二門を迹と為し、久遠名字の妙法を本と為す。信心強盛にして唯余念無く南無妙法蓮華経と唱へ奉れば凡身即ち仏身なり。是を天真独朗の即身成仏と名づく。
    問うて曰く、前代にも此の法門を知れる人之有りや。答えて曰く、之有り。
 求めて云はく、誰人ぞや。示して云はく、釈尊是なり。尋ねて云はく、仏を除き奉りて余にも之を知れる人師・論師有りや。答えて曰く、天台の云はく「天親・竜樹内鑑冷然・外適時宜」と。今日の南無妙法蓮華経は南岳・天台・妙楽・伝教の内鑑冷然・外適時宜なり。内鑑冷然・外適時宜の修行の日は本迹一致なり。有智無智を嫌はず「円頓とは初めより実相に縁す。理は造作に非ざる故に天真と曰ふ。証智円明の故に独朗と曰ふ」と云ひて、理位観行に趣かしめて利益を為し、末法の時を待つ者なり。故に天台の云はく「但当時大利益を獲るのみに非ず、後の五百歳遠く妙道に霑はん」云云。天台・章安・妙楽・伝教等の大聖は、内証は本迹勝劣、外用は本迹一致なり。其の故は教相も観心も相似・観行解了の人師、時機は像法なり。付嘱も亦妄りに余人に授く、御身も亦迹化の衆たる観音・妙音・文殊・薬王等の化身なり。今末法は本化の薩埵たる上行等の出世の境、本門流宣の時剋なり。何ぞ理観を用ひて事行を修せざらんや。予が所存は内証外用共に本迹勝劣なり。若し本迹一致と修行せば、本門の付嘱を失ふ物怪なり。
    本迹の不同は処々に之を書す。然りと雖も宿習拙き者は本迹に迷倒せんか。若し本迹勝劣を知らずんば、未来の悪道最も不便なり。宿業を恥ぢず還って予を恨むべきか。我が弟子等の中にも天台・伝教の解了の理観を出でず、本迹に就きて一往勝劣・再往一致の謬義を存じて、自他を迷惑せしむるの条宿習の然らしむる所か。閣浮提第一の秘事たりと雖も、万年救護の為に之を記し留むる者なり。
 

平成新編御書 ―1679㌻―

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