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『就註法華経口伝』


(★1740㌻)
 釈尊の大恩を報ぜんと思はゞ法華経を受持すべき者なり。是即ち釈尊の御恩を報じ奉るなり。大恩を題目と云ふ事は、次下に以希有事と説けり。希有の事とは題目なり。此の大恩の妙法蓮華経を四十余年の間秘し給ひて後、八箇年に大恩を開き玉ふなり。文句の一に云はく「法王運を啓く」と。運とは大恩の妙法蓮華経なり云云。今日蓮等の類南無妙法蓮華経と唱へ奉りて日本国の一切衆生を助けんと思ふ、豈世尊の大恩に非ずや。章安大師十種の恩を挙げたりしなり。第一には慈悲逗物の恩、第二には最初下種の恩、第三には中間随逐の恩、第四には隠徳示拙の恩、第五には鹿苑施小の恩、第六には恥小慕大の恩、第七には領知家業の恩、第八には父子決定の恩、第九には快得安穏の恩、第十には還用利他の恩なり。此の十恩は即ち衣座室の三軌なり云云。記の六に云はく「宿萌稍割けて尚未だ敷栄せず。長遠の恩何に由ってか報ずべき」と。又云はく「注家は但物として施を天地に答へず、子として生まることを父母に謝せず、感報斯に亡するを以てと云へり」と。輔正記の六に云はく「物として施を天地に答へずとは、謂はく物は天地に由りて生ずと雖も而も天地の沢を報ずと云はず。子亦此くの如し」と。記の六に云はく「況んや復只我をして報亡せしむるに縁りて、斯の恩報じきをや」と。輔正記に云はく「只縁令我報亡とは、意の云はく、只如来の声聞をして等しく亡報の理を得せしむるに縁るなり。理は謂はく一大涅槃なり」と。
  御義口伝に云はく、此くの如く重々の所釈之有りと雖も、所詮南無妙法蓮華経の下種なり。下種の故に如影随形し玉ふなり。今日蓮も此くの如きなり。妙法蓮華経を日本国の一切衆生等に与授するは豈釈尊の十恩に非ずや。十恩は即ち衣座室の三軌なりとは、第一第二第三は大慈為室の御恩なり、第四第五第六第七は柔和忍辱衣の恩なり、第八第九第十は諸法空為座の恩なり。第六の恥小慕大の恩を、記の六に云はく「故に頓の後に於て便ち小化を垂れ、弾斥淘汰し、槌砧鍛練す」と。
 

平成新編御書 ―1740㌻―

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